canashiroのブログ

はてダ挫折者の再挑戦。

ネットカフェ難民―ドキュメント「最底辺生活」 (幻冬舎新書 (か-4-2))

ネットカフェ難民―ドキュメント「最底辺生活」 (幻冬舎新書 (か-4-2))
川崎昌平氏の本。以前、氏とお話したときにこの本は私小説だ、ということを聞いていたので違和感なく読むことが出来た。逆に、ネットカフェ難民とは何ぞや、という気持ちでこの本を読むと、内容にがっかりしてしまう向きも多いだろうと思う。
その点をクリアして、私小説だと知った上でならば、この本はオススメ。面白い。ネットカフェ難民生活、という極限状態に身を置いた上での著者の哲学や思考がテンポよく、洗練された文章で記されているので単純に読み物として面白い。
筆者の文才と頭の良さに加えて、すべてを捨てて浪人として生きることの出来る境遇と性格(ニートとは、ダレもがなれるものではない)にちょっと嫉妬してしまう。僕は高校生のときに読んだ安部公房の「鞄」という作品が好きで好きでたまらないのだが、「鞄」をもっていない人生の素晴らしさ、あるいは鞄がもっと軽い人生の可能性について、自らのもつ鞄を眺めながら考えてしまうことがある。そんな僕からすれば「気まぐれ」と呼ばれる衝動的欲求だけで難民生活に突入できる筆者の身軽さ(形而上的にも形而下的にも)は大変うらやましく思える。
しかし、同時に筆者は真の格差は経済ではなく、文化に表れると論じ、作中で何度も自分自身を被格差の立場だと論じるが、文化的立場でみた場合に筆者は間違いなく文化的格差では勝ち組なのではないかと思う。出なければ、これだけの文章が書けるハズがない。(もしかしたら天賦の才能なのかもしれないが)
とかく筆者の文章力ですべてをわかった気にさせられるが、本質的な意味で筆者はネットカフェ難民ではない、作中でなんどかちらつくが筆者はすべてがイヤになったときに帰る家があるのだ。それに加えてこのような本を出版できるだけの能力も備えている。そういった意味でもこの本はネットカフェ難民の本ではない。そこには注意するべきである。